■はじめに
身近な人や愛する人との死に直面した時に人は様々なストレスを経験します。
これまで死について語る事はタブーとされて来ました。しかし、身近な人や愛する人を送らなければいけないと言う事はどなたの身の上にも起こり得る事です。
ご遺族が体験し乗り越えなければならないグリーフワークについてご紹介します。
■グリーフワーク(悲嘆の仕事)
全ての人が辿らなければならない勤めの事です。
悲嘆のプロセスには必ず苦痛を伴いますがその苦痛を経験する事はとても大切な事なのです。喪失の現実をきちんと受け止めなければなりません。
そして次に喪に服します。近親者に訃報を連絡したりお葬式で挨拶したり個人が行うべき社会儀礼で社会的に規定された行動を遵守しなければなりません。
■グリーフワークのプロセス
1ショック期
身近な人や愛する人の死に直面した時茫然として無感覚の状態になります。
一見冷静に受け止めているように見えても現実感を喪失した状態である場合もあります。死があまりに大きなショックである事からハッキリとした反応が現れないのでしょう。
正常な判断が出来ずにパニック状態になる事もあります。
2喪失期
死を現実に受け止め始めますがまだ充分に受け止められない段階です。
号泣や自責の感情または死亡の原因となった相手に対する怒りや敵意などの感情が次々と繰り返し現れます。
3閉じこもり期
死を現実のものとして受け止める事ができた段階ですが従来の自分の価値観や生活が意味を失って鬱状態に陥り自分が存在していないような無気力な状態になります。
生前にしてやらなかった事が悔やまれたり死の原因が自分にあったのではないかと責めたりすることも特徴です。
4再生期
故人の死を乗り越えて新たな自分、新たな社会関係を築いていく時期です。
積極的に他人と関われるようになります。
■正常な悲嘆
悲嘆は故人が死に至った原因や故人との関わりなどによって様々な形で現れます。
1身体的症状
身体的苦痛・のどの緊張感・呼吸障害・疲労感・食欲喪失・消化に関する諸症状・睡眠障害・気力喪失・頭痛・故人と同じ症状の出現など
2心理的症状
故人の面影にとりつかれる・思慕・罪責感・憂鬱・不安・怒り・敵意・孤独・絶望・幻覚など
3行動的反応
号泣・故人の行動の模倣・行動パターンの喪失など
4認知的反応
思考、判断速度の低下・集中力の欠如など
■悲嘆による様々な問題
一人が悲しみで落ち込んでいるとそのためにもう一人は悲しみに耐える傾向があります。すると落ち込んでいた人が立ち直った時にもう一人には悲しみが襲ってきます。
また、一人が故人の思い出にひたりたいにも関わらずもう一人が忘れようとしていれば互いに相手を理解できず衝突するなど様々な問題が起こりがちです。
悲嘆の表れには個人的に差異がありますのでその違いを理解してお互いに相手を思いやる必要があります。
■病的な悲嘆
死別者の10〜15%は病的な悲嘆に陥ると言われています。
現れるはずの悲嘆の反応が現れなかったりすることです。
全く何事もなかったかのように振る舞ったり、死を喜んで受け入れるように見える人もいますがこれは悲嘆の感情を抑圧しているだけで、いつか増幅した形で現れることになります。
悲嘆の反応は抑圧せずにそれを受け入れ表現する必要があります。
また、他人に対する怒りなどが積み重なり人間関係が正常に営めなくなるような歪んだ悲嘆に陥る場合もあります。
病的な悲嘆に陥った遺族には専門医によるカウンセリングや治療が必要となります。
■グリーフケアの基本的な考え方
悲嘆の表現として表れる様々な感情や行動などを正常なものとして共に受け止める事が大切です。
私たちは悲嘆の表現をつい良くない事だと説得したり悲しまないように励ましたりしまいがちです。悲嘆を取り除いたり解決する事はできません。
日本の社会環境は悲しみを充分に表現する事をよしとしていません。特に大人の男性には他人に悲しみを見せない事が望ましいとさえ思われています。
また、不用意な勇気づけは病的なプロセスに陥らせる事になりかねません。
悲しんでいる遺族を前にすると悲しみを分かち合うつらさから逃れたいと思考が働き励ましの言葉をかけてしまいます。
悲嘆の様々な感情を正常なものとして認めそれを表現して共に受け止めてあげることが必要です。
■おわりに
身近な人や愛する人を失った時私たちは正常な悲嘆のプロセスを歩む事が必要なのです。
具体的なグリーフケアについては”グリーフ(悲嘆)その2”でお伝えします。
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